セヴィリアの理髪師の結婚:ボーマルシェの戯曲と二つのオペラ、それぞれの魅力

 4月9日が本番の「セヴィリアの理髪師の結婚」。連日、濃密な稽古をしています。とにかくキャストが歌・演技とも達者!優秀で、やる気溢れた人たちばかりで、すごい熱気です。

 公演詳細はこちら http://noteweb.jp/figaro/

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プログラムに掲載する解説文を書きました。

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 オペラ「セヴィリアの理髪師」と「フィガロの結婚」の原作戯曲を書いたボーマルシェは、「劇作家」という肩書でくくることのできない奇才でした。最初は時計職人だった彼が時代の趨勢に応じて生涯に手がけた事業は、劇作のほかに発明、外交、出版、園芸、武器輸出などなど多彩すぎるほどです。しかし彼の才能が最も豊かに羽ばたいたのはやはり文筆でした。ユーモアたっぷりにペンの力で社会不正に立ち向かう彼の精神はフランス革命の起爆剤となったとも言われます。自由闊達、頭の回転が速く、社交的で女性にもモテモテだったボーマルシェ。彼が生んだ魅力的な主人公フィガロはまさにボーマルシェの分身です。

 今回のプロダクションは、今日では上演機会が極めて少ないボーマルシェの原作に光を当てつつ二つのオペラを再構成し、ひとつの物語として上演する試みです。伯爵夫人ロジーナが3年前の出来事を回想する形で、「フィガロの結婚」のストーリー中に「セヴィリアの理髪師」のエピソードが織り込まれていきます。

 曲と曲の間の芝居の部分に関しては、通常のレチタティーヴォ・セッコの代わりに原作のセリフを使うことにしました。ただし元の戯曲は長いため、各シーンのセリフは大幅に短縮してありますが。オペラをご存知の方は、戯曲のセリフがオペラのレチタティーヴォにそっくりである事に・・・いえ、オペラのリブレットが戯曲にかなり忠実に書かれている事に改めて驚かれることでしょう。

 戯曲にはオペラ化されるにあたって省かれてしまった要素も色々あります。例えば、バジリオはマルチェリーナのことが好きで結婚したいと思っている、フィガロはマルチェリーナだけでなくバルトロからも借金をしている、などなど。裁判シーンの前に出て来る、マルチェリーナと判事クルツィオ(原作ではブリドワゾン)のトンチンカンなやり取りも秀逸です。当時公職にいた人間の堕落ぶりが面白おかしく揶揄されている場面です。フィガロがセヴィリアで理髪師になるまでのいきさつに関する話は、ボーマルシェ自身の人生と重なるところがあります。またマルチェリーナはバルトロの元家政婦なので、今回は「セヴィリア」にもマルチェリーナを登場させることにしました(オペラではマルチェリーナは省かれ、代わりにベルタという名前の家政婦になっています)。こういったディテールもトリビア的に少しずつ入れてみました。戯曲とオペラ、両方の魅力を味わっていただければ幸いです。

 演出については作品で担当を分け、田尾下哲さんが「フィガロの結婚」、私が「セヴィリアの理髪師」を演出しました。物語は視覚的にも異なる二つの世界を行き来します。

 二作品両方に登場する役のうち、フィガロ、ロジーナ(伯爵夫人)、バルトロ、マルチェリーナは両作品とも同じ歌手が歌いますが、伯爵役については二つの作品で声種が異なるため、作品によって演者が変わります。そしてバジリオは…?!

 この企画に意欲満々で取り組んでくれた、才能溢れるキャストとピアニストによる渾身のパフォーマンスを存分にお楽しみください。