ステラ・アドラー演劇学校のムーヴメントクラス

ステラ・アドラー演劇学校のムーヴメントクラス

 アメリカの学校で友達だったSuziは、当時から歌や芝居が好きで、私を舞台の世界に引き入れてくれた人。彼女はその後ニューヨークの大学で演劇を学び、演出家・女優になり、自分のカンパニーで作品を発表したり、色々な舞台に出たりする傍ら、演劇学校の名門Stella Adler Studio of Actingで先生をしている。NYに来ると彼女のヴィレッジのアパートに泊めてもらう。

 ステラ・アドラーはスタニスラフスキーから直接指導を受けた唯一のアメリカ人で、1949年に彼の教えに基づいた演劇法を広めるためこの学校を設立した。

 私が今回訪ねた時期はサマースクールの時期で、何かクラスを見学できないかなと思っていたら、Suzi自身がムーヴメントのクラスを持っているというので、見学させてもらうことにした。

 

 ミッドタウンのビルの2階と3階に学校はある。外のドアは看板もなく、ここに演劇学校があるとは全くわかりませんね。

 構内では撮影は控えたので、パンフレットだけ貰ってきた。

 

 


 Suzi自身はViewpointsというテクニックのスペシャリストである。Viewpointsはアン・ボガートという女優が1970年代に開発したアクティングテクニックで(正確には、メアリー・オヴァリーという人が開発したインプロのテクニックをアン・ボガートが舞台の演技術に応用した)、動きが生まれる瞬間の衝動を大事にしつつ、空間をダイナミックに使う技術。

 実は洗足音大のミュージカルコースで一緒に授業を持っているアメリカ人のヴォーカルの先生マリタ・ストライカーもViewpointsを学んでいて、時々授業に使っている。

 

Viewpointsの項目は

・時間に関係するもの(テンポ、持続時間、運動感覚的な反応、反復)

・空間に関係するもの(形、ジェスチャー、構造、空間における関係性、地形)

 

これらを意識して変化をつけながら動くことによって、ダイナミックな動きが生まれる。私がRADAの先生から学んだラバンのテクニックとも共通点があり、とても刺激的だった。

 

 クラスの参加者は7人で、ハイスクールを卒業して大学に入る前の俳優の卵。男子4人、女子3人。

 

 数分のウォームアップの後、まず、足で床に自分の名前のスペルを描くエクササイズ。

 空間の使い方に変化をもたせるため、

・  身体のポジションが高いか、低いか

・  身体の進行方向が前か、後ろ向きか、横向きか

・  動きが大きいか、小さいか

・  様々なテンポ(スピード)

これらの点にバリエーションをつけながら行うようにと指示。

 

 

この指示により生徒たちは、高く背伸びをしながら歩いたり、這いつくばったり、それを後ろ向きでやったり横歩きしたり、小さな歩幅だったり大きかったり、ゆっくり歩いたり駆け足になったりする。一人一人の動きが全く違うため、コンテンポラリーダンスを観ているような感じ。

 

 

 

次に、上記を続けつつ、歩く軌道が①円か ②直線か ③斜めか、のバリエーションを付けて部屋の中を歩くように指示。

「どういう人物がこのように歩くかを考えて」

「床を足がどのように仕切っているかを意識して」

 

 

次に、上記の延長で、3、4人のグループに分かれ、最初の人が身体で1つの軌道を描き、2番目の人はそれをそっくり真似した後に、続けて自分の軌道を1つ足す。3番目の人は1番目と2番目の人の軌道をやってから自分の軌道を足す・・・というエクササイズ。

最後は、4人全員で同時に、みんなで完成させた軌道をやってみる。

それが出来たら、別のグループと同時に合わせてやり、お互い相手を意識して、なんらかのストーリーを作る。

 

 

次のエクササイズは、7人全員で一斉に動いて、①列 ②円 ③塊 のどれかを作って静止するもの。誰かの言葉による指示によってではなく、全員がお互いを感じ合い、言葉なしに、なんらかの形になる。それぞれの身体のポーズは様々。

 

 

次に、7人それぞれが部屋の中のどこかに行って、何かのポーズをして静止。それを6パターンやる。次に繰り返す際、1から2へ、2から3へ行く時の衝動を意識するようにする。なぜ、どうやって次のポジションへ行くのか。ストーリーを作っていく。

 

Suzi「観客は、空間のダイナミックな変化が必要なのです」

「舞台では全員がお客さんから見えるようにしないといけません。全員が今どこにいるか意識して。全員が見えるようにするにはどうしたらいい? 自分が誰かを隠していたら、調整できる?」

 

そして、常に強調されていたのは

「自分の外側にある何かに対しての反応で動くようにして。何が自分を動かすのか? 自分を驚かせて」

「動く直前の瞬間が大事。衝動が大事。なぜ動くのか? 反応で動いて」

 

動きの直前の衝動を意識、というのは、演技のリアルさ、新鮮さを保つにはとても大事だと思う。

 

日本でViewpointsを実践している俳優や演劇の先生がいるかどうかわからないのだが、日本でもワークショップをやったらきっと俳優にとっては大きな刺激になるだろうと思った。