「エソポのハブラス」(イソップ物語)有田編

「エソポのハブラス」(イソップ物語)有田編

 2016年に東京文化会館で初演した、古楽アンサンブル・アントネッロによる音楽劇「エソポのハブラス」(イソップ寓話)3度目の地方公演。3月30日、佐賀県有田の炎の博記念堂にて公演してきました。

(作品の背景や、天正遣欧使節団についての感動は初演の時に書きました

 エソポのハブラスとは、1600年前後、安土桃山時代の日本で、ポルトガルから来日した宣教師たちが日本語を覚えたり、日本人が西洋文化を学んだりするために日本語に翻訳され、天草で印刷された「イソップ寓話」のことです。天正遣欧使節団がヨーロッパから持ち帰った、日本初のグーテンベルク活版印刷機によって印刷された様々な書物の中の一つです。

 

 アントネッロの音楽劇「エソポのハブラス」はこの時代を背景としたファンタジー。エセ宣教師のゴンサロと、キリシタン武士の妻イネスが「エソポのハブラス」を読み合い、その時代の歌を歌いながら仲良くなり、最後は悲しい結末を遂げます。原案は、この時代の文化的背景と音楽について膨大な知識をお持ちのアントネッロ主宰の濱田芳通さんで、台本はタナカミオさん。とにかく楽しくて勉強になって、笑えて泣ける恋物語です。ゴンサロは架空の(でもきっとこんな人がいたであろう)キャラクターですが、イネスは実在の人物で、キリスト教弾圧が強まる中、磔で殉教した武士やその家族たちの一人です。

 演奏される音楽は当時のポルトガルやスペインのルネッサンス音楽から、日本に持ち込まれ、日本の民謡にも影響を与えたかもしれない楽曲の数々。

  昨年11月に兵庫県立芸術文化センターで上演した際のパンフレットの説明文が充実しているので、掲載しておきます。

 

 今回は地元の子供達が、イネスから聖書や歌を教わる村の子供達に扮して出演する楽しいバージョンでした。

 

 炎の博記念堂はとても響きの良い素敵なホール。客席天井のシャンデリアやドアノブは、なんと有田焼で出来ています。

 

 ゆかりの地の近くでの公演ということで、公演後は天草へも足を伸ばし、キリシタン関係や物語に関係のある施設を巡ってきました。天草はキリスト教禁教の時代、隠れキリシタンが信仰を守り続けた島です。

 コレジオ館にある、グーテンベルク活版印刷機の実物大レプリカ。

 

 

 

 天正少年遣欧使節団がヨーロッパから持ち帰り、豊臣秀吉の前で演奏した楽器のレプリカ。

 

 天正遣欧使節団がローマで法皇シクストに謁見した際の一行の行列図のレプリカ。現在オリジナルはヴァティカンの図書館に飾られています。天正遣欧使節団の4人が馬に乗った姿が描き込まれています。

 

 

  日本に初めてオルガンを持ち込んだのは、1579年に来日したイタリア人の巡察師ヴァリニャーノと言われています。1600年頃に、天草で、それを模して竹を使ったオルガンが作られたとされています。こちらが当時の竹のオルガンを再現して現代の職人さんが作ったもの。なんとも柔らかく温かみのある響きがします。

 

 

 16世紀、2年以上の船旅を経てヨーロッパにたどり着き、ポルトガル、スペイン、イタリアの都市を巡り、大歓待を受けた日本の10代の少年たちの旅と文化交流を思うと、その奇跡に身震いがします。

 世界遺産に登録された、崎津集落にある崎津教会。実際に教会が建ったのは、キリスト教が解禁になった明治時代ですが、禁教時代に踏み絵が行われていた場所に祭壇があります。教会内では撮影できませんでしたが、中に入ると、圧倒されるような濃密なエネルギーが充満していました。潜伏キリシタンたちの二百数十年に渡る祈りの念がそのまま残っているような。

 

 こちらは大江天主堂。明治時代、キリスト教が解禁されたのち、天草で初めてできた教会で、フランス人宣教師ガルニエ神父によって建てられました。



 おまけ:イルカウォッチングをしてきました!天草の海はイルカの生息地なのです。生まれて一週間ほどの赤ちゃんを含め、数十匹ものイルカの群れに出会えました。



天草の夕日。