「絹のはしご」立ち稽古1週目

「絹のはしご」立ち稽古1週目

 

 Young Artistsの公演「絹のはしご」(La scala di seta) 立ち稽古が始まった。1時間半の短いオペラなので、最初の3日間でオペラ前半の立ちをつけ終わるという速いペースで進んでいる。

 新しいシーンをやる前にはみんなで集まって、そのシーンの本読みをする。1フレーズずつ、まずイタリア語で読み、次にそのフレーズの英語訳を、声を出して読む。全員が同じ意味を共有しているかを確認するための作業である。

 イギリスの音大の教育ではおそらくこの方式が定着していると思われ、みんな慣れていて、本読みはスムーズに進む。イタリア語と英語は語順が違うことが多いので、英訳をする際には、英語の文法に直した訳ではなく、できる限りイタリア語の語順のまま、word-to-wordの訳で話すやり方が定着しているようだ。先日ギルドホール音楽院の授業を少し見学した時も、先生が「テキストは一つ一つの言葉を全部、英語で意味を言えるようにしておくこと」と強調していた。

 この方式でやると実感させられるのは、私自身のテキストの把握の度合いとイタリア語の文法の知識がまだまだ甘いということである。このセンテンスはぼんやりとしか分かっていなかった!と内心焦る。

 そして、歌手達は全員これくらいしっかりとテキストの読みを準備しているにもかかわらず、立ち稽古に入ると、イタリア語会話が実際にできる歌手とそうでない歌手ではおのずと演技力に違いが出てしまう。特に、相手のセリフが単なる知識としてわかっているだけなのか、それともきちんとその場で「聞こえているのか」で、反応に差がついてしまうのだ。「演技とはリアクション」だから、相手の言うことがちゃんと耳に入っているかどうかでリアルさが全然変わってくる。

 

 指揮者は自身もYoung Artist1年目のイタリア人。イギリス人・オーストラリア人が中心の歌手たちのディクションを毎日かなり細かく直している。彼がダダダダダっ!とイタリア語のテキストを喋るのを聴いていると、ロッシーニの音楽は本当にイタリア語の音がそのまま音楽に移し替えられたものなんだ!と感動する。

 現在ロイヤルオペラハウスの本舞台では「セヴィリアの理髪師」が上演中。こちらの指揮者はイギリス人のマーク・エルダー氏。イングリッシュナショナルオペラの芸術監督も務めたベテランの指揮者だが、実はこっちの「絹のはしご」のほうが音楽的にはずっといい、と私は個人的に思っている。「絹のはしご」の指揮者は身体からリズムがほとばしり出ている。エルダー氏はどちらかというとアカデミック。4拍子の部分をよく2で振ったりする。そうすると音楽はスムーズになるのだが躍動感がない。「正しい」解釈なのかもしれないけれど、出て来る音楽は面白くない。イタリア人とイギリス人の差と言ってしまったら身もフタもないのだが、ロッシーニを面白く演奏するには「ほとばしるもの」がないとダメだ。

 アンサンブルのテンポの速い部分は容赦なく速いテンポで振っている。歌手たちは必死。この緊張感でとてもキビキビした音楽になっている。いい本番になりそうな予感。


稽古場の窓からの景色。