17~18世紀のマナーと所作(1)

17~18世紀のマナーと所作(1)

 

 先週は念願だったMandy Demetrioiuの個人レッスンを受けることができました。内容は17~18世紀の所作とマナー。

 MandyはYoung Artists Programmeに毎週来ているムーヴメントの専門家で、特にピリオド関係の舞踊や動きが専門だと言っていたので、特別にお願いして個人レッスンを受けさせてもらうことにしました。私が直接レッスンを受けたいと思ったのは所作の裏にある考え方や価値観も知りたかったからです。期待どおりに、所作の形だけではなく、動きの微妙な使い分けで礼儀の度合いを示したり、いろいろと心理的駆け引きができることを教わることができました。

 今はヨーロッパの歌手はあまりこういう事に興味を持つ人は少ないらしく、彼女も喜んで時間ギリギリまで次々と教えてくれて、1時間はあっという間に終わってしまいました。こういう内容がまとまった良い本がないかどうか訊いたら、The Polite Worldという本を教えてくれたので、古本をアマゾンで購入。挿絵はその本からのものです。

 

 基本的な考え方。

 貴族の間ではダンスが重要な教養の一つと考えられていたので、動き方も基本はダンスに沿っている。また貴族は庶民と違って身体を使って実際的な労働する必要がない。それを示すために、姿勢はすっと伸ばし、立ち方は左右比対称。男性は片方の足に体重を乗せた形が基本。女性は手をドレスの胴とスカートの切れ目のあたりにゆったりと置く。

 

 

お辞儀(男性)

①   右手で帽子を取って左の脇にしまう

②   右手の手袋を外す

③   左足を後ろに下げて膝を曲げ、プリエの形にする

④   右手をくるっと宙で一回転させて、身体の脇で伸ばす

⑤   腰から身体を曲げる

⑥   右足はかかとが床から離れた状態

お辞儀する時は目線は下に。ただし、相手にわざと失礼にしたい時は目線を相手と会わせたままにする。

 

お辞儀(女性)

①   左足に重心を乗せて、右足を伸ばす

②   右足を左足の後ろに持ってきて、軽くプリエする

 

ひざまづき方

・  神様と王様に対しては両膝をつく。

・  それ以外の目上の人に対しては片膝。両脚で台形を作るようにしっかりと。

 

男性が女性をエスコートする方法

・  男女が腕を組むことが許されるようになるのは19世紀半ば以降。それまでは男性が右手を伸ばして手のひらを下に向け、女性はその上に左手を重ねる。

・  屋外では、女性が建物側、男性が道側を歩くようにエスコートする。ただし女性の社会的地位が男性よりも低い場合は女性が道側を歩く。

・  ダンスの時など、男性が手のひらを上に向けてエスコートする場合もある。その際、男性が人差し指を使ってリードすると「頭脳でリード」、薬を使ってリードすると「心でリード」するという意味になる。

 

 

その他、座り方、歩き方、手の使い方、礼儀の度合いによるバリエーションなど教わりました。時間オーバーで、18世紀のマナーのレッスンは翌週に持ち越し。

 

 ヨーロッパのオペラはますます現代演出が中心になってきているので、舞台でこのような所作が必要になる機会も減っています。私は逆に、衣装も設定も作者指定どおりの時代に設定して、その代わり台本を徹底的に分析してドラマを濃密にする演出にしたら面白いのではないかと思っています。

 

 レッスンの翌日に時間が空いたのでナショナルギャラリーに行って18世紀の絵を見ていたら、絵に細かく描き込まれた人物たちが先生から教わった通りの身体の使い方をしていました。