オペラ演技指導 覚書

オペラ演技指導 覚書

  現在、11月21日(月)本番の洗足学園音楽大学声楽コースのオペラ試演会を演出しています。昨日通し稽古が終わったところです。今回の演目は、実習1が「フィガロの結婚」、実習2が「コジ・ファン・トゥッテ」、実習3が「セヴィリアの理髪師」「ドン・パスクワーレ」「カプレーティとモンテッキ」「オルフェオとエウリディーチェ」「愛の妙薬」の抜粋です。前田ホールにて夜6時開演。

 ほとんどまっさらな学生に演技を教えるのは本当に難しく、技術が必要なことだと痛感します。ヒントを得るために2年前ロイヤルオペラハウスとギルドホール音楽院の研修中にとったノートを読み返すと、色々忘れていたことがありました。考えてみると当時ブログに書いたことについてはしっかり記憶に残っているので、自分への覚書のために書き出すことにします。

 大学の授業は時間がなくて、演技指導は突っ込んだところまでできず演出をつけるだけで精一杯なことが多いのですが、イギリスでどれだけ細かい指導が行われているかを思い出し、理想を忘れないよう・・・

 

演技の個人レッスン:John Ramster(演出家・演技コーチ)

(Due Foscari(Verdi)のBarbarigoという小さい役を歌う若い歌手のための個人レッスン)

・  小さい役ほどちゃんと役作りをして、何か目的があってそこにいるように見せなければならない

・  舞台に登場する度に、「この場面の直前はどこにいたのか」「今は何をしようとしているところか」「今最も必要なことは何か」を自分に問いかけること

・  その役のセリフ、センテンスに特に頻繁に登場する音は何か? この役は”L”が多い→それを使って表現する

・  少し長めの休符がある時はどうやって芝居を埋めるか? 「次のセリフを言おうとして言葉を探す」→「言えない」→「また言おうとする」をやってみると良い

・  歌う前には必ず思考がある。「思考 → 目に表れる → 身体に表れる → ジェスチャになる → ジェスチャの途中で言葉が出て来る」という順番

・  休符は絶対に表現に使うこと。次の思考が何かを明確にする

・  句読点のところで新しい思考が生まれているものである

・  新しい思考が生まれる時は、違うところを見る

 

役作りの方法いくつか

・  その人物が「こうなりたい」と思う理想の自分と、その人物が「こういう封には見られたくない」と思う恐れとを書き出してみる。人間の態度は、本人の恐れを隠そうとして出て来るものである。

・  その人物の子供時代を想像してみる。兄弟の数、どんなところで育ったか、両親とは仲良かったか、処女(童貞)はどうやって失ったか?

・  その人物の去年1年間はどんな年だったかを想像する

・  どんな将来を思い描いているかを想像する

・  その人物のファンタジー(思い描く夢)は何か

・  誰にも話していない一番重大な秘密は何か

・  この物語が終わった日にはこの人物は何をするか

 

 

ロッシーニの音楽稽古 David Gowland(音楽コーチ)

・  ロッシーニは、ゆっくりなパッセージでもその下には常に16分音符のエネルギーが流れている。それを意識していれば、速いパッセージに移行しやすい。言葉の喋り方も、遅いセクションでも16分音符で考える。

・  速いアンサンブルのセクションでは、休符がある間も他の人の部分を一緒に歌っているつもりでいるとずっとリズムに乗っていられる

・  ロッシーニは、フレーズの終わりはふわっと浮かせるようにする。ドニゼッティは音の最後をしっかり置く。それが違い

・  次のテキストを喋りそうな感じでブレスを取る

・  感情は子音に込める

 

ロッシーニの音楽稽古 John Ramster

・  喜びを歌っているところで “telerezza, gioie, desire, piaceri, ebrezza”と形容詞が連なっているテキストは、ひとつひとつを違うものとして明確に意味をつける。またそれぞれの言葉を言うときに目線を帰ることによって思考が変わっていることを明確にする

・  ロッシーニによくある、同じテキストを繰り返す部分は、外に向かって表現している時と内面で確認している時を作ってバリエーションを付ける。繰り返しは、なぜ繰り返すかの理由を自分で見つける。例えば、だんだん確信が出て来る、など。

・  その人物が思い描いている対象(何を見ているか)をはっきりさせる

・  大きな声を出すところは大きなジェスチャーをしない。そのほうが説得力がある

・  同じ言葉を何度も繰り返す時(たとえばamore, amore…と何度も言うとき)は、それぞれに違う意味を持たせる

 

ムーヴメントのグループレッスン Mandy

・  舞台上でやる動きにはすべて意味(attitude=態度)を持たせること

・  自分が空間のどこにいるのか、どっちの足に重心があるのかを意識する

・  舞台上の動きは、空間に筆で絵を描くようにする

・  次にどちらへ動きかを意識して、ロジカルな方に脚を運ぶ

・  舞台上でやることは何でも、けっして適当にやってはいけない。芸術家なのだから!

 

(続く)