「シッラ」公演中止

 今週末に本番が迫っていた、神奈川県立音楽堂「シッラ」は昨日をもって中止になりました。前日に場当たりを終え、これからいよいよ歌手とオケを合わせて本格的な舞台稽古が始まる直前の決定でした。

 舞台はすっかり整い、ヨーロッパ各国から集まった歌手とオーケストラ、そこに日本側の、歌舞伎からインスパイアされた彌勒さんの演出、美術、映像、衣装が組み合わさって何が生まれるのか、皆がワクワクその瞬間を待っていた矢先。

 公演が中止になるということは、そこまでに長い長い時間とエネルギーを費やした準備が全て無駄になるということ。特に舞台の世界は、単なるビジネスではない。出演者もスタッフもみんな純粋に舞台が好きで、お金を超えたところで情熱を傾ける世界なので、関係者の無念さは計り知れません。

 

 政府の要請を受け、昨日今日にかけて、全国で公演がバタバタと中止になっています。

 関係者とお客様の落胆、興行主が負う莫大な負債、業界全体で当面、失業者があふれること。

 政府は要請するだけで、要するに中止決定は自己責任にされ、なんの補償もあるわけではありません。

 

 今回の新型肺炎に対する日本政府の対応のまずさというか、無策ぶりには、怒りを通り越して絶望しています。

 

 以前から私は安倍政権のやることなすことに呆れ、怒りを溜めてきましたが、このような形で国民の命が直接脅かされると同時に、世界からの日本の評価が地に堕ちるまでになるとは想像していませんでした。

 

 初動がきちんとしていれば、これほど被害が拡大することもなかったはずです。

 しかし

 中国での被害が広がっても入国を制限せず。

 成田での水際対策は杜撰を極める。(1月に中国から帰国した人の体験談がツイッターなどに出ています)

 クルーズ船を留め置き、菌を培養させるような状態にしてから、ある時急に下船させ、隔離せずに市中に放つという愚策。そして4、5日経ってから「公共機関を使わないように」と連絡する支離滅裂さ。

 検疫官も感染するというまさかの無防備ぶり。

 今日下船を始めた乗務員に関しては、二週間隔離するらしい。この後手後手ぶりと、ポリシーのなさ。

 政府の対策会議は毎回10分程度。会議の内容は、やってます感を出すためPR用写真を撮ること。

 

 しかも「ウイルスは忖度できないから、さすがに今回は政府も感染抑制に真剣に取り組むだろう」と思ったら、国内での感染者数の増加が緩やかなのは、検査を抑制しているからだということが判明してきて、心底恐怖を覚えています。

 病人を減らすのではなく、データ上の病人の数をごまかす。人間の命に対して、これまで政府が他の諸問題に対して取ってきた卑劣な策をそのまま当てはめるとは。

 

 トップの人間のモラルの欠如が、政権と省庁全体に波及し、「真面目に考えても無駄だから、お上の動向に従っておこう」という指示待ちの風潮が蔓延し、今回の無能無策ぶりを招いたとしか思えません。

 

 震災の年も、海外からの演出家やスタッフと仕事をする機会が多く、その都度、彼らの不安な思いを受け止めながら仕事をするのが、日本人としてやるせない気持ちでした。彼らは自分の健康が不安なだけでなく、家族や同僚の心配を押し切って、相当な覚悟で日本に来るわけです。

 現在は実際問題として、日本に滞在した後に本国に入国さえできないリスクもあります。

 今回は震災の時以上に、海外から見た日本への不信は深刻だと思います。

 

 

 感染の拡大は、努力にも限界があり、防ぎきれない面はあると思います。

 しかし、政府が真剣に取り組み、情報を公開している国は、信頼を得ています。

 私は今の日本が本当に恥ずかしいです。

 

 我々舞台人も状況に流されるだけではなく、本気で怒らなくてはならないという気持ちで書きました。