「セヴィリアの理髪師の結婚」中止にあたって

 再再演の予定だった「セヴィリアの理髪師の結婚」は中止になりました。現在、年内の延期を計画しています。

 

 現在、演劇および音楽界では大多数の公演が中止に追い込まれています。

 これが、日本でありがちな、何か別の社会的な要因による横並びの自粛傾向であれば「ぜひ決行しよう」と言ったと思うのですが、今回、この公演については私は中止が良いのではないかと考えました。とフェイスブックでは表明したものの、心はかなり揺れたままで今に至ります。

 政府の大規模イベント自粛要請は当初は3月前半まででしたし、「セヴィコン」は期間的にも規模的にもその対象に当てはまりませんでした。が、それでも中止したほうがいいと思った理由は、まず稽古に伴うリスクでした。オペラの稽古は濃厚接触以外の何物でもなく、万が一内部で感染者が出た場合は目も当てられません。もちろんお客様の安全に関しても、資金の潤沢なプロダクションのように赤外線による熱のチェックなどもできないですし、万全を期すにも限界があります。そして一番の懸念材料は、現在日本では症状が出た場合にも検査が容易に受けられないという状況があり、政府の対応が杜撰で、国内で実際感染がどこまで広がっているのかが全くわからないということでした。危険があるとわかっていてキャスト、スタッフ、お客様をリスクにさらすことは、やはり避けたい。

 

 中止(延期)が発表になった後も、それで良かったのか考え続けています。(最終的な決定権はプロデューサーと、主宰者である田尾下さんにありましたので、私の意見がどちらだったとしてもあまり変わりはないのですが)  

 こういう大変な時期だからこそ、舞台の世界で生きている人たちに活動の場を提供するためにも、舞台から元気を得るお客さんのためにも、上演すべきではなかったか。

 せっかく素晴らしいキャストが揃っていたのに、これを逃したら同じ顔ぶれが年内に集まるのは困難を極める。音楽アドバイザーの園田さんも既に2月に熱心に音楽稽古をしてくださり、衣裳の大東さんも献身的に衣裳合わせを進めて下さっていたのに。

 コロナは長期戦になりそうという見方が出てきており、そうなると、もうイベントなどの中止はやめて、日常生活を注意して送りながらうまく付き合っていくしかないのではないか。

 多くの公演が中止になる中、3月下旬から4月の開幕を目指して稽古を続けているプロダクションも数多くあるわけだから、これも決行しても構わないのではないか。

 今回の騒動による文化的、経済的な損失は計り知れず、業界には一時的な失業者が溢れるばかりでなく、倒産する企業も出てくるであろう。そのダメージに加担してしまったのではないか。

 

 中止するにしろ、決行するにしろ、それぞれの団体がそれぞれの考えを持って行うことであり、決行する団体に反対するつもりはありません。

 私自身も、イベントの開催者であると同時に一観客でもあるので、今全ての公演や映画館も閉鎖してしまったら、やっぱり人生の楽しみの何割かがなくなってしまいます。

 どちらも非難されることなく、それぞれの考え方が尊重されることを願います。

 そしてまた不安なく舞台を上演したり観劇したりできる日が、早くやってきますように。