現在参加中の佐渡裕プロデュース「夏の夜の夢」は稽古場での稽古が終了して、来週から劇場入りとなる。
http://www.gcenter-hyogo.jp/dream/
開幕前なので細かいことを書くのは差し控えるけれども、これは私が今まで参加したオペラの中でベストプロダクションかもしれない。
まずキャスティングが絶妙。「夏の夜の夢」はアンサンブルピースで日本人・イギリス人で構成されたソリストが15人いるが、どの人も役にピッタリ合っている上に、歌唱・演技力ともに圧倒的な素晴らしさ。
単純に能力の高さということでいえば、過去に私が参加したドイツ、イギリスのオペラハウスの歌手ももちろん高水準だったが、オペラハウスの仕事というのはそこにいる人たちにとって日常のルーティーン化されているところがあり、またキャスティングが劇場の様々な都合により必ずしも歌手本人の意志とは違うところで決定される部分もあるので、キャストの態度もある程度ビジネスライクである。しかし今回はキャストがこの公演のために行われたオーディションで選ばれているため、皆やる気があって、また新制作なのでその場で新しい作品を生み出している意識があり、稽古場がポジティブなエネルギーに満ちている。
アントニーの演出は各シーンの大まかなプランを持ってきて、具体的な演技は歌手と共にその場で作っていくやり方をとっていて、これが一層キャストの潜在能力とやる気を引き出しているように思える。アントニーは美術と衣裳デザインも兼ねていて、いかにもイギリスらしい繊細なこだわりに満ちている。
そして作品そのものの素晴らしさ。
オペラ作品は大方が音楽は素晴らしくても台本が弱い。しかし「夏の夜の夢」はシェイクスピアの戯曲のテキストをそのまま使用しているため(場面の順番が入れ替わったり、カットされたりはしているが)、シェイクスピアの言葉と世界観そのものを味わうことができる。さらにブリテンの音楽は、聴けば聴くほど細部の工夫を発見でき、作曲家自身の戯曲への愛情やユーモアも感じられ、飽きることがない。
「夏の夜の夢」のストーリーはほとんど全編てんやわんやのバカ騒ぎなのだけれど、昨日の稽古場最終日、止めながらの通し稽古で、最後のシーンが終わった時には、ふと涙が出そうになった。ここには人間と世界のすべてが書かれている、と感じた。
劇場入りすると私は主に照明付きの通訳になるので(照明は新国立劇場でおなじみのヴォルフガング・ゲッベル氏)相当な長時間勤務となりますが、ヨーロッパ最高水準のアーティストたちの仕事をつぶさに見るのがとても楽しみです。