Hello! Dolly ハロー・ドーリー @ Schubert Theater ★★★★☆
1964年初演、古典ミュージカルの代表的作品。
このプロダクションのは完全に「古き良き」を逆手に取り、美術を現代的にアップデートせず、ことさらに具象的な背景幕や装置を使って、懐かしい昔のミュージカルを意識的に再現している。むしろ初演当時よりも具象的なのではと思わせる美術でおとぎ話の世界に観客を引き入れる。それでいて全体のテンポはきりっと引き締まっていて、あくまで現代人が演出した昔の世界。
主演のベット・ミドラーが大人気で、幕開きに登場しただけで1分くらい大歓声が鳴り止まない。彼女が何か少し可笑しいことをやるだけで笑いと拍手で芝居が止まる。これはもう、彼女を観るためのミュージカル。個人的には、80年代のヒット曲 “The Wind Beneath My Wings”や”Rose”の歌い手として懐かしかった。
https://www.youtube.com/watch?v=M-OAhYll24c
Come From Away @ Schonfeld Theater ★★★★★
9/11の発生時、多くの飛行機がカナダのニューファンドランド島にあるガンダーという小さな街の空港に緊急着陸し、合計7000人もの人々が島で数日間を過ごして地元の人々との交流が生まれたという実話をもとに作られたミュージカル。テーマは重そうなのだが、全体のトーンは明るく、客席はよく笑っていた。
https://www.youtube.com/watch?v=6MytaNqhEVE
音楽は舞台脇の樹々に紛れるような形で配置された生バンドによる、アイリッシュ風フォークロック的なジャンル。ミニマルな舞台装置が美しく、剥げかかって風合いのある木目の床と、舞台奥の壁が、照明によって様々に変化する。そのほかに舞台上にあるのは両サイドの樹々と、役者たち自身が様々な形に配置するイスとテーブルのみ。
二十人程度の役者がそれぞれいくつかの役を演じ、主に一人称語りで物語が進む。ダンスはなく、役者のムーヴメントのスタイルは少し様式化したアンサンブル的なもの。
物語の内容というよりも、この演出スタイルがお洒落で、ひたすらステージングを観察していた。
ブロードウェイの舞台はとにかくテンポが緊密。一瞬の隙もなく次々と展開していく。これを見習いたい!
Symphonie Fantastique 幻想交響曲 @ HERE Theater ★★★★☆
地元の友人の勧めで行った。実験的な演劇を多く上演する小劇場(SOHO近く)での、なんとも不思議なパフォーマンス。タイトルどおりベルリオーズの幻想交響曲に合わせ、水槽の中を様々な色や形をした布が美しく踊ったり、ブクブク泡が立ったりする。言葉では説明しづらいのだけれど、客席からは、ベルリオーズの音楽に合わせたCGの映像を鑑賞するような感じ。海の中のクラゲとかヒトデとか、その他不思議な生き物たちのドラマのように見える。ただ上演されるのは映像ではなく、すべてがライブであり手動。ジャンルとしてはpuppetry(人形劇)という事になるらしい。
キャパ百数十人程度の小さな劇場で、舞台にあるのはピアノと、ピアノより少し小さいサイズの水槽のみ。幻想交響曲全曲を、ピアニスト1人が演奏し、それに合わせて水の中の幻想的なビジュアルが展開する。水槽の周囲は黒布で覆われているので、本番の間は一体どういう仕組みで布が操作されているのか全くわからない。色々な効果が次々出て来てマジックのようだ。
上演が終わってカーテンコールになると、舞台裏からウエットスーツを着てびしょぬれになった人達が5人出てきた。この人達がずっと操作していたらしい。
バックステージを見て仕組みが知りたいと思っていたら、ちゃんと終演後にバックステージツアーがあった。
なんと、パフォーマーたちは自らが水槽の上空にあるレールから吊られた状態になって、水槽の上から、水中の布に付いた棒を操作することによって布を動かしていた。当然、水が飛び散るので、バックステージ全体自体が水でビショビショになっていた。稽古には6週間を要したそう。
すごく面白かったけど、全体がすべて抽象的なイメージだけに終始するのがちょっともったいなく、海の中の話であれば「スイミー」のような「主人公」を表す布を中心にドラマが展開したら更に面白いと思う。
The Book of Mormon @ Eugine O’Neill Theater ★★★★☆
モルモン教の宣教師として訓練を受けた男子たちが、派遣先のウガンダで布教活動を行うおバカ系コメディ。モルモン教徒の生態をおちょくると同時に、「アメリカ人あるある」で笑いを取る。
https://www.youtube.com/watch?v=OKkLV1zE8M0
楽曲はWicked等の系統のポップス。優等生で自己中心的な主人公プライスは、Wickedのグリンダがアメリカンカルチャーにおける「人気の女子生徒」のカリカチュアなのと似ている。アフリカに旅立つ前に主人公のプライスが派遣仲間でKYな性格のカニングハムと共に歌う”Mostly Me”(「二人でアフリカで大成功を収めよう、ただし主に僕が」)は”Popular”の男版。1幕ラストはレミゼの”One Day More”のパロディらしき、ソロが次々フィーチャーされる大アンサンブルで、モルモン教に感銘を受けた現地の女の子が「ソルトレイクシティー!」(モルモン教の本拠地)と歌えば、主人公プライスは「オーランドー!」(彼はアフリカが嫌になり、ディズニーワールドがあるフロリダのオーランドーを夢見ている)と歌って、ひたすら可笑しい。
優等生プライスと負け犬のカニングハムの立場が逆転し、最後は二人とも少し成長して仲良くなるのもWicked的というか、アメリカ映画でよくある展開。確かに既視感があるのだが、そこはアメリカ、あの手この手で笑わせるおバカコメディのレベルの高さ、すんなり乗せられてしまう。
ただアフリカがステレオタイプ的に描かれているのが気になる(貧困、エイズなど)。今はアフリカも相当開発が進んでいる地域も多いし、むしろ、貧しい国と思って行ってみたらアメリカよりよっぽどテクノロジー化していたとか、そういう話ならもっと面白いのに。
Chicago シカゴ @ Ambassador Theater ★★★☆☆
シカゴはロンドンで90年代に観たきりだったので、久しぶりに観てみることに。
NYのこのプロダクションも90年代からずっとロングランしている。
オーケストラをステージのど真ん中に設置したシンプルな舞台、照明むき出しの装置、作品そのものも古さを感じない。殺人を犯してでも人の注目を浴びたいという誇張された承認欲求の世界は、SNSで「いいね」が欲しいあまりに極端な行動に出る人(危険な場所で自撮りして死んでしまうとか!)が続出する現代にも通じる。今年春にフォッシーの「スウィート・チャリティ」を演出したばかりなので、フォッシースタイルが身体の随まで染み込んだ美しいダンサー達の動きを見るのは快感。
ただ、あまりに長いロングランのせいなのか? キャスティングに若干違和感があった。ロキシーの俳優はヴェルマより年上のようでちょっとおばさん臭く、弁護士のビリー・フリンはもうおじいさんで歳を取り過ぎ、ロキシーの夫エイモスはいくら「存在感のない役」といっても特徴なさすぎ(と思って後でよく見たら、この役はカヴァーがやっていた。でも他の公演もカヴァーがやったのにも関わらず素晴らしかった役もあった)。映画版「シカゴ」の配役が良かったからそのイメージがあるからかもしれない(ロキシーがルネ・ゼルヴィガー、ヴェルマがキャサリン・ゼタ・ジョーンズ、フリンがリチャード・ギア)今回10本観た中で配役に違和感があったのはシカゴだけだったので、他の作品のキャスティングがいかに完璧かがわかる。
ちなみに現地の友人によると、シカゴはつい最近、キャストに自殺者が出て、業界人の間で話題になっているらしい。なんでもアンダースタディの一人がプロデューサー達からイジメに遭い、抗議の自殺をしたとか。契約上アンダースタディもそれなりに良い給料をもらうので、それを払いたくないプロデューサー側が彼が辞めるよう追い込んだのでは?という話。それで出演者たちもその人の側に立ってプロデューサーに反発しているらしい。ブロードウェイは巨額の資金が集まるビジネスだけに裏側も相当色々あるんだろうなあと想像する。