東京大学にて

東京大学にて

  さる6月26日、東京大学・小林真理教授のお招きを受け、東大文学部の「メディア間翻訳・翻案研究:文学テクストの映像化・舞台化」という授業でオペラとサロメについての臨時講義をしてきました。

 この授業は、文学作品を映像化や舞台化することにまつわる諸問題を考えるクラス。「映像化・舞台化された作品が、原作のテキストから自立した作品として成り立ちうる可能性について、特に文学研究が果たしうる役割について、学際的な文化資源学の視点から、テストを交えつつ討論を行う」 という大変難しそうな(笑)授業です。オペラのほか、戯曲や日本の古典文学なども題材になっています。

 

 授業で題材として「サロメ」を取り上げるにあたり、二期会「サロメ」で演出助手をする予定になっていた私に話をしに来て欲しいということでお声をかけていただきました。

 小林先生は文化行政が専門で、かつ個人的に長年のオペラファン。最近もヨーロッパに長期で滞在されていたので、これまで観劇されたオペラの数も相当なもの。

 東大で講義なんか務まるのかと面食らいましたが、授業では小林先生ご自身がその前の2回で「サロメ」についての学究的なこと、ヨーロッパのオペラハウスのシステムなどについて講義をされる予定で、私には「サロメに限らずなんでも自由に話してください」というオーダーでしたので、あえてアカデミックな話はせず、現場の人間として「オペラって実際、どうやって作っているのか」という話をすることにしました。 

 「文学作品を舞台化する」ことは、実際には生身の人間が汗水垂らし、ぶつかり合いながらやっていることを、若い人たちに少しでも具体的にイメージしてもらえたらと思ったからです。

 今まで自分が演出助手として参加したプロダクションの中から、印象深く、エピソードが豊富な公演を取り上げ、写真や映像を見せながら、作品の解釈が演出にどのように現れているかや、稽古のプロセス、現場での苦労話、起きうるアクシデントと対応など、笑い話を交えてお話をしました。

 

二期会「カプリッチョ」 (ジョエル・ローウェルス演出 2009年11月)

新国立劇場「アンドレア・シェニエ」再演 (フィリップ・アルロー演出 2010年11月)

二期会「ドン・ジョヴァンニ」(ラインドイツオペラとの共同制作) (カロリーネ・グルーバー演出 2011年11月)

ラインドイツオペラ「ドン・ジョヴァンニ」 (2012年5月)

新国立劇場「さまよえるオランダ人」再演 (マティアス・フォン・シュテークマン演出2012年2月)

新国立劇場「ナブッコ」 (グラハム・ヴィック演出 2013年4月)

二期会「トリスタンとイゾルデ」 (ヴィリー・デッカー演出 2016年9月)

二期会「サロメ」 (ヴィリー・デッカー演出 2019年6月)

 

 

  受講生がどんな動機でこの授業を取っているのか興味があったので、授業の最初に聞いてみたところ、某劇団◯◯に就職が決まっている学生、自分で演劇をやっている学生、はたまたプロの楽器演奏者でもあり、オペラのピット経験もある博士課程の方などもいて、皆さん熱心に講義を聞いてくれました。

 

 初めて足を踏み入れた東大キャンパスは広大。 街一つ分くらい、ゆうにあるのですね。建物も趣きがあり、歴史の重みを感じました。

 

 

 授業の準備に、改めていろいろな「サロメ」の映像を10本くらい観ましたが、公演前よりも終わってから他のプロダクションを観るとより発見があるもので、今回のヴィリー・デッカー演出「サロメ」の特徴も改めてはっきりしました。

・衣装、セットを徹底的に抽象化することにより、寓話としての「サロメ」の物語が明確になっている

・舞台に色がなく、特に血が具現的に現れない。それにより、サロメの猟奇的な面ではなく、ヨハナーンを求める彼女の純粋な愛の物語になっている

といったところでしょうか。