最近の字幕のお仕事二件。
「ルル」の原作は20世紀初頭に書かれたフランク・ヴェーデキントの戯曲「地霊・パンドラの箱」。(ヴェーデキントについては去年記事に書きました)。原作もある種、時代を先取りした不条理劇。なので「ルル」の歌詞は歌詞というより、ほぼセリフ。それだけ細かいニュアンスが求められ、稽古場に通っていつも以上に何度も書き直しました。
英語かドイツ語がわかる人には、英語の字幕は作品をよりダイレクトに感じられるようで、そのような感想をよくいただきます。
「クラシックキャラバン2021・クラシック音楽が世界をつなぐ」日本語字幕
日本を代表する指揮者と音楽家が集結し、9月から12月まで国内13都市を回るコンサートシリーズ。オペラ歌唱部分の日本語字幕を担当しています。
コンサートの場合、視覚的には舞台にはオーケストラと歌手だけなので、字幕の存在はオペラ以上に大きくなります。したがってテキストの内容はもちろんのこと、キューをどこに置くかで演奏効果が変わります。
例えば「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ」のクライマックス部分は、通常であれば、このような字幕になるかもしれません。
No, no, sulla tua bocca lo dirò
Quando la luce splenderà
いや それ*は朝の光が差す時に (*それ=私の名前(カラフ))
あなたの唇の上に告げるのだ
しかしこの部分は歌い手がたっぷり張り上げる部分で、音楽的に盛り上がり、またリタルダンドもかかっています。なので、日本語で一度にこのテキストを出すのではなく、歌の進行に合わせてなるべくリアルタイムで翻訳が出るようにしたい。
そこで私はこの部分を別々のキューに分け、
いや それはあなたの唇の上に告げるのだ
朝の光が差す時に
としました。その方がより感動的になると思ったからです。
このように、字幕にはある種の演出効果もあると思います。