ステージ・コンバット:西洋剣の歴史

ステージ・コンバット:西洋剣の歴史

 

 Allison De Burghによるステージ・コンバット授業、2回目。今回の授業は剣の歴史と様式について。

 西洋剣は時代によって形と使い方が変遷してきました。その流れをざっと見つつ、小道具としての剣の扱い方を少し。

 

 授業の最初にロイヤルオペラハウスの武器部門スタッフの案内で、劇場の剣の所蔵庫を見学しました。写真撮影禁止なので様子をお見せできないのが残念なのですが、所狭しと並べられた様々な様式の剣の数々は圧巻の一言。剣だけで全部で1000本以上は所有しているとのこと。日本刀も何本かありました。

 

 授業で配布された資料。時代による剣の変遷を表した図です。私の汚い書き込み付きですが…

  その数日後に大英博物館で現物を色々見てきたので、その写真も載せます。

 

 

 図の一番左は、ローマ帝国時代以前の古代に使われたもの。

 下が大英博物館のものです。まさに左端の図と同じですね。これは紀元前1200~1050年頃のもので、今のハンガリーで発掘された剣。

 

 図の左から二番目はローマ時代のグラディウス。ここまでの剣は、振り回して横殴りに斬りつけるスタイル。

 下の写真では左から2番目がそうです。ローマ時代のイギリス南部のもの。

 

 図の真ん中がヴァイキング。兵士が甲冑を身につけるようになってから剣が長くなり、攻撃スタイルは相手を横に斬りつけるのではなく、直角に刺す形になりました。甲冑を着ている相手には斬りかかっても無駄だからです。

 下の写真がそれ。

  

 

 図の右から二番目は十字軍時代のブロードソード。1150~1550年くらいに使われました。兵士が自分で携帯するのではなく、実際の戦闘が始まるまで従者に持たせていました。

 これは1400年頃にドイツで使われていたもの。両手で握って使います。

 

 

 儀式用に、実際の戦闘向きではない巨大なグレートソードというものもありました。

 写真はイギリス王子が儀式に使っていたもの。その大きさで王の権力を示していました。

 

 

 ここまでの剣(ロングソード、ブロードソード)の弱点は、攻撃ポイントを細かく狙うことが不可能なことです。束に指をかけるところがないので、急所をピンポイントで狙うことができません。

 これを改善したのが、1550年頃からフランス革命頃まで使われたレイピアです。

 図面の一番右がレイピア。オペラでよく貴族が携帯しているのはこれでしょう。(補足:その後知った事ですが、日本では舞台でレイピアを使うのは禁止されていて、ショートソードしか使えないそうです)

 束に人差し指をかけられるため、細かく相手を狙うことができます。形は細く軽くなって、片手で楽々と扱うことができます。これが登場してから軍人だけでなく民間人(貴族)も公の場では常に剣を帯同するようになりました。(戦場ではレイピアではなくサーベルを使いました)

 それまでのブロードソードと比べるとレイピアはか弱く見えますが、実はレイピアは軽くて早い動きが可能のため、それまでの剣よりも圧倒的に有利なのです。振りかぶる必要がないので瞬時に相手を刺せるからです。

 束と剣の間の部分は手を守る目的でカップのような形になっています。

 この頃、男性は短剣も常に携帯していて、街中で闘いになった時には右手でレイピア、左手で短剣を持って盾の代わりに使いました。短剣以外にも鞘や、マント、ランタンを盾の代わりにすることもあります。

 剣はどの時代でも富の象徴でもありました。裕福な軍人は最新式の剣を持ち、下層の人々は時代遅れの剣を使うということが多かったようです。レイピアは特に自分用に特注で作らせ、束に凝った彫り物や装飾を施すなど、所有者のこだわりがありました。

 フランス革命の後、公の場で貴族のように振る舞うのが不利になったことから剣の携帯は廃れましたが、決闘をする習慣は19世紀半ばまで、国や地域によっては20世紀になっても残っていました。

 さて、実際にこのように様々なスタイルの剣を、小道具として舞台でどうやって使うかという問題ですが。ロイヤルオペラハウスでは剣が登場する演目ではだいたいファイティングディレクターが指導につくようです。今シーズン初めのリゴレットでも、何度目かの再演にもかかわらず剣の指導をするディレクターが来てかなり細かく指導していたとのことで、稽古環境の充実ぶりは羨ましい限り。