フィガロ&セヴィリア続き

 

 「フィガロの結婚」と「セヴィリアの理髪師」の勉強を進めるにつれ、先日の記事に書いた内容が怪しくなってきたので、加筆します。

1) コンテとコンテッサは結婚して何年経っているかという問題。前の記事で、二人は結婚から十数年経っているはずと書いた。その根拠は、原作に書かれている、コンテッサがケルビーノの名付け親(ゴッドマザー)であるという事実である。(この情報はオペラでは省かれている。)名付け親というのはカトリックの洗礼の儀式に立ち会う、実の親とは別の後見人のことで、成人していないとなれない。しかも通常は既婚者が担う事になっているので、ケルビーノが12~14歳とすると、コンテッサは結婚から少なくとも12~14年経っているという計算になる。

 しかし一方、原作5幕7場、コンテが相手をスザンナだと思い込んだままコンテッサを口説くシーンで、「3年も一緒にいると、夫婦の間も興ざめてくるものさ」と言うセリフがある。こちらに従えばおおかたの理解どおり、二人は結婚して3年ということになる。作品のほかの色々な要素を鑑みると、やはり3年のほうがぴったりくる。ただし名付け親の件はつじつまが合わなくなってしまうのだが・・・。

2) フィガロがマルチェリーナからお金を借りたのはいつで、何のためなのかという点。これについては、原作3幕14場の裁判のシーンで、バルトロが読み上げる結婚契約書に、フィガロがマルチェリーナから伯爵の邸において2000ピアストルの金額を受領した」との文面があるのが判明。つまりフィガロがマルチェリーナから借金をしたのは「セヴィリアの理髪師」の頃ではなく、コンテの家に住み込むようになってからだという事になる。

 ただし、従僕としてコンテの家で堅実な暮らしをしている中でそんな大金が必要になるとは思われない。やはり元々はフィガロが「セヴィリア」の前に放浪しながら色々な事業を手掛けていた時の借金を、コンテの従僕になるにあたって清算するためにマルチェリーナから借りた、という成り行きだったのではないかと想像する。

 面白いのは、これも前はすっかり読み落としていたのだけれども、「セヴィリア」原作の中でフィガロはバルトロからも借金をしている。バルトロがフィガロと言い合いをする中で、「つべこべ言わずに貸した100エキュに利息を付けて返せ」と文句を言う場面がある。100エキュとはどれくらいの価値なのだろう?と思って調べたら、1エキュが現在の3000円くらいとのこと。つまり30万円くらい。結構な額をバルトロからも借りているのである。この調子だと、フィガロはこの2人だけでなくほうぼうから借りているのではないだろうか。いったい、具体的にどういう事情でそんなにお金が必要だったのかは、フィガロはボーマルシェの分身と言われているから、ボーマルシェの人生をたどればきっとわかるだろう。近々そのあたりをもう少し調べてみたいと思う。