洗足音楽大学×多摩美術大学コラボレーション「コジ・ファン・トゥッテ」

洗足音楽大学×多摩美術大学コラボレーション「コジ・ファン・トゥッテ」

  洗足音楽大学×多摩美術大学によるコラボレーションオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」2日間3回公演が無事終了しました。多摩美の劇場美術コースで舞台美術、衣裳、照明を専攻している学生がデザインした舞台に洗足声楽コースの学生が出演するという画期的な企画です。照明家で多摩美教授の成瀬一裕氏が「多摩美の学生にオペラを学ばせたい」と思ったことから、舞台監督で多摩美講師の八木清市氏を通じて私に話があり、実現に至りました。初のコラボ企画のため今回は1幕のみの抜粋で上演時間は40分程度でしたが、たいへん面白い試みとなりました。

 

 

 美術については、まず演出の私が多摩美側に演出コンセプトを伝えたうえで学生の間でコンペが行われました。どちらの学生も作品の時代背景を学ぶという主旨があったので、設定はオリジナル通りの18世紀。演出のコンセプトは「幻想が剥がれ、現実が見えてくる」。  

 

 舞台装置に関してこちらから出した条件としては

 

・  曲番号1番~3番は舞台奥の空間でフィオルディリージとドラベッラの屋敷でパーティが行われており、パネルを隔てたその前の屋外空間で男たちが口論をするという形にしたい

 

・  3番の終わりでパネルが奥に移動して屋内の壁となり、反響版の役割も果たすようにしたい(会場となるスタジオは演劇用の空間のため、音響的に条件が良くないので)

 コンペには二つの案が提出されました。どちらも面白かったのですが、最終的に選ばせていただいた案は転換のアイディアが非常に面白かったことが決め手となりました。二枚のパネルを舞台スペースの真ん中でクロスさせ、さらに表裏をひっくり返して、前と後で違うデザインが出現するという方式です。オペラの場合は音楽の間尺の中で転換を行わなければならないので、転換がスムーズかつ視覚的に面白いことは必須です。

 また、1場とそれ以降に共通で使う小さいスツールも、1場(屋外)と2場(屋内)で表と裏をひっくり返して違うデザインにするという凝ったものでした。

 

 ある作品に対して演出プランを作る時、美術家と対等の立場で一から一緒にプランを練るというのが理想的なパートナーシップですが、学生にも関わらず、演出家の抽象的なアイディアを見事に具現化するだけでなく、よりよい形で提示してくれたことに驚きました。 

 

 多摩美側の美術の指導者は金井大道具社長の金井勇一郎氏です。

 

 衣裳デザインについては完全に多摩美側にお任せしました。衣裳デザイナーの桜井久美氏の指導のもと、学生たちは18世紀当時の服装のシェイプ、テキスタイルなども勉強したうえで、ユニークな衣裳をデザインしてくれました。

 

フィオルディリージとドラベッラは、一部は洗足声楽コースのストックをアレンジしたもので、それ以外はオリジナル。ヘッドとボディにあしらわれているアジサイの花は花言葉が「移り気、浮気」だそうです。

 

 

 アルフォンソとデスピーナはコメディア・デラルテのキャラクターから取られており、シェイプも18世紀のものに忠実。

 

 フェランドとグリエルモがアルバニア人に変装する時の衣裳は、「隣国の外人」という意味で韓国の民族衣装から触発されたものだそうです。アルバニア人といえば赤が定番なので、青が基調の衣裳は新鮮でした。

 洗足の学生もよく頑張りました。普段、オペラ実習の授業は週一回しかなく、毎年の試演会も劇場での時間は前日の場当たりと翌日のゲネ・本番の二日間しかありません。しかし今回は本番を含めて5日間あったことから、「この会場で洗足を代表して歌うんだ」という意識が学生を目覚めさせ、日を追うごとに表情が豊かになり、短期間でパフォーマーとしてぐっと成長してビックリしました。

 学生のみならず講師側にとっても、この企画を通して業界の一流スタッフの方々たな形で交流が図れたことは貴重な経験になりました。

 オペラが大好きな照明の成瀬氏は、稽古の間、私の隣でずっと歌っていらっしゃいました(笑)コジは全曲歌えるみたいです。そうそう、オペラで働くスタッフはどの部門の人もまずオペラが好きなんですよね。今回オペラの照明を初めて手掛けた学生は、楽譜を読むことから学んだそう。こうやってオペラの現場に若いスタッフがどんどん入ってきたらうれしい事です。