4月の最終週、RADA (Royal Academy of Dramatic Arts = 英国王立演劇学校)の元校長ニコラス・バーター氏によるプロの俳優のためのスタニスラフスキー・ワークショップを4日間見学しました。初めてニックのワークショップを受講したのは15、6年前。その後は彼の通訳として何年も、ニックが日本で指導をする度にそばで学ばせてもらいました。演技に関する私の考え方の根幹はニックから学んだ事に基づいています。最後に通訳をしてから5、6年経ち、自分自身も指導をするようになって数年経った今、改めて彼の指導に触れ、演劇の一番コアの部分に立ち戻ることができて幸せでした。
イギリスには彼のような指導者が多いと思います。静かで落ち着いていて洞察力が深く、本質的で、教養が深く、知性とエモーションの両方を持っています。(演出家には知性ばかりが勝っている人も少なくない。)私は10代はアメリカで過ごしたのですが、大人になってからの演劇と音楽の学びの根幹はイギリスの指導者たちからでした。ニックとRADAの先生達、その後出会った何人かのイギリス人演出家、音楽家、指導者の素晴らしさに惹かれて、4年前のロンドン研修に至りました。
あまりにも基本的な知識ですが、人物分析のための「スタニスラフスキーの9つの質問」をリストします。
ニックが言うには、スタニスラフスキーは宗教ではなく、絶対守らなければならないというものではありません。しかし俳優も演出家も真の天才というのはほとんどいない。つまりインスピレーションが湧かない時というものはあるもので、そういう時にスタニスラフスキーシステムを使えば、少なくとも、必ずなんらかの面白いことが起きる。という訳です。
1) Who am I?
– その人物について、台本から事実を書き出す。性別、年齢、職業、家族構成、etc。
– 他の人物たちは自分について何と言っているか?
– 自分は自分について何を言っているか?
– 「他の人物が自分について言うこと」と「自分が自分について言うこと」はマッチしているか? マッチしていない場合、なぜ?
–
2) Where am I?
– そこはどこの国?街?場所?
– その人物にとって親しみのある場所?慣れない場所?
– 屋外?屋内?
3) When is it?
– 今は朝?昼?夜?
– 何時?
– 季節は?
– 時代は?
4) What do I want? = その人物の目的
– 人間は常に何かを欲しがっているものである。
– その場面に何をするために出てきたのか? 相手に何を求めているのか
5)Why do I want this? = その人物の「超目的」(人生をかけて欲しいもの)
– どの場面も、人物の目的はその人の超目的を達成する事につながっている
6) How do I get it? = その人物の戦略
– この部分は予めプランしてはいけない。稽古をしながら見つけていく。稽古をするうちにだんだんパターンが見つかる。
7) What is in my way? = 目的を達成することを阻んでいる障害
- 障害は、他の人物の目的であったり、物理的な障害であったり、本人の内面であったりする
– 大事なのは、障害に向かっていくこと。障害が何かを説明してはいけない
8) Why do I want it now?
– なぜ、その目的を「今」達成することが大事なのか (緊迫感が生まれる)
9) What will happen if I don’t achieve the objective?
– その目的を達成できなかったらどうなってしまうのか = 西洋の演出家は、演技に緊迫感がない場合 “raise the stakes”という言い方をする。目的が達成できるかどうかが人生の一大事になるようにしなければならない。