フランチェスコ・ベッロット氏ベルカント講習会、オペラ・アカデミアトークセッション

 今週参加した講習会とシンポジウムより。

 

1)演出家フランチェスコ・ベッロット ベルカント講習会@昭和音楽大学 5月15日

 

 ベッロット氏は先日藤原歌劇団「チェネレントラ」を演出した方。

 ワークショップの題材はコジ・ファン・トゥッテのいくつかの場面。予め選ばれた歌手たちに簡単なステージングを付けながら、演技指導をしたり、レチタティーヴォの技術について話したり、といったオペラの基本を講義する良い内容だった。講義しながら、時間が足りない足りないと仰っていて、本当は参加者としても一週間くらい集中的に講義を受けたいところ。

 特に自分が覚えておきたい内容に絞って。

 

レチタティーヴォの技術

・  すぐに歌おうとせず、まずは喋ってみること

・  イタリア語のレチタティーヴォでは、言葉のアクセントの付け方は3種類ある。

  • その部分(音節)を強く言う (intensivo)
  • 長さによるアクセント:他より長めにその音節を発音する
  • 間をとる “Io ____ questa sera vado al cinema”  → questa seraが強調される

・  レチタティーヴォでは休符は無視しても良い。どこを強調するかによって休符の取り方を変える。

・  この時代のセッコは、四分音符は音価分だけ伸ばすのではなく、そこにアクセントがあるという意味。四分音符のところは短くアクセントをつける。

・  句読点は守ること。小さい間を取る。

・  ヒロイックに喋る人は母音を長めに伸ばすと良い “Ove un acciaro,….”

・  アッコンパニアートは高貴なものと考えられる。レチターレすること。セッコと違うのは、オケと対話しているということ。オケが内面の表現をしている

 

演技について

・  モーツァルトではアクションがストップして音楽を聴かせるところを作るのが大事。そこは時間が止まっている

・  モーツァルトとダ・ポンテは身体的コンタクトをするところとリアクションを音楽に書き込んでいる

・  相手に触れる時は、触ること自体ではなくその動き(わかるような動き)が大事

・  ブッフォであるアルフォンソは唯一観客にコンタクトが取れる人物。話をしながら、「本当はそうではない」といったサインを表情でお客に送る。いつ他の人物にかけていて、いつお客にかけているかをはっきりさせる。(これはオペラブッファをいわゆるブッファらしく上演する場合の話で、現代演出ではこうとは限らないが…)

 

ベッロット氏プロフィール 1961年イタリア・トリノ生まれ。クレモナの大学を音楽学で卒業。演出家、音楽学者、ヴェネツィア音楽院にてアルテシェニカ(舞台上の基本演技)の教授を務める。2004年から11年間、ベルガモのドニゼッティ歌劇場の芸術監督。就任中、06年にガエターノ・ドニゼッティ・ベルガモ・音楽フェスティバルを創設。演出家としては、著名演出家らの助手を務めたあと、主要歌劇場で多くの演出を手掛けている。

 

 

2)OPERA ART ACADEMIA 2018 《オペラ芸術論Ⅱ/トークセッション》

「〜歌唱、演技、表現、私たちの課題を考える〜」@桜美林大学四谷キャンパス 5月17日

パネリスト:

岩田達宗氏(演出家)


大山大輔氏(声楽家)


加藤昌則氏(作曲家)

司会: 田尾下哲氏 (演出家)

 

田尾下哲氏の主宰で今年度、1年間に渡ってオペラという芸術表現について様々な角度から考えるシリーズの第2回目。

 

 映画、テレビ、インターネット、ゲーム、2.5次元など、あらゆるエンタテイメントが高度に発達した現代において、オペラが生き残るための課題をテーマに三名がトーク。

 私が特に感銘を受けたのは「刺激」についての話。

 大まかに言えばオペラは刺激が少なく、たとえば映画は刺激が多い(と、一般的には捉えられている)。

 田尾下氏より、一般的な人が感じるオペラの「つまらなさ」について発議。「学生にオペラ見せると『つまらない』という反応が多い。理由は、長い、事件が少ない、言葉がわからないなど。映画はどうか? 映画というメディアが生まれた当初は一本(100分)につき、500カットくらい。1964年にヒッチコックの「鳥」で飛躍的に伸びて、1200カット。現在では、例えば「トランスフォーマー」だと2万カットもある。どんどん刺激が増えている。このような状況がある中で今日オペラをやることをどう考えるか」

 この発議に対して、岩田さんと加藤さんの話は、ともすれば忘れてしまいそうなオペラの意義そのものを突いていたと思う。

 

 岩田さん:オペラは「刺激」は少ない。ストーリー展開は遅いし。刺激は少ないものだという前提で自分はやっている。オペラ歌手はアスリートであり、その説得力のある生身の身体と歌が勝負。100分なら100分の中に刺激を多くするのではなく、むしろ歌手以外の要素を消したいと思っている。

 

 加藤さん:オペラの歴史は刺激の歴史。むしろどんどん刺激が増えていった。バロックからモーツァルトへ、ヴェルディ、プッチーニ、20世紀に入ると人間のグロテスクな部分も表現するように。音楽だけで十分刺激的である。にも関わらず聴衆が刺激を感じられないとしたら、感じ方を知らない、もしくは感じ取れなくなってしまっているのではないか。クラシックと音楽の面白さを伝える努力が必要ではないか。

 

  振り返ってみれば、自分がオペラの世界でやる喜びはそこにある。例えばたったひとつの言葉、そこに作曲家が付けた和音の見事さ。そしてそれを歌手とオーケストラが見事に表現した時のとんでもない魔力。そのミクロの世界の絶妙さに身悶えしたり、打ち震えたりする、その体験こそがオペラの魅力で、これ以上の刺激は無いのではないか。そのことを常に思いながら仕事をしていきたいと思った。


  あ、大山大輔さんのお話も、発想も運びも面白くて笑いすぎました…。芝居好きなオペラ歌手は最強だと思います。