ジルヴェスターコンサート「バーンスタイン・オン・ブロードウェイ!」

ジルヴェスターコンサート「バーンスタイン・オン・ブロードウェイ!」

 現在、大晦日の兵庫県立芸術文化センター・ジルヴェスターコンサートの準備と稽古が進んでいます。

http://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertDetail.aspx?kid=4300511107&sid=0000000001


 来年兵庫の佐渡裕プロデュースオペラではバーンスタイン「オン・ザ・タウン」が上演される予定で、また今年はバーンスタインの生誕100周年でもあるため、今年のジルヴェスターではバーンスタイン作品も含めたブロードウェイ黄金時代・1950年代、60年代のミュージカルをフィーチャーします。

 演出のお話をいただいて、まず最初にしたことはプログラムの選曲。「オン・ザ・タウン」から演奏するなら、最も有名な男声3人の曲New York, New York(フランク・シナトラのあの曲とは別)は是非入れたいと思ったのですが、この時代には他の作品にも楽しい男声アンサンブルの曲が多くあるので、男声アンサンブルを中心にプログラムを組むことを提案しました。ミュージカル・コメディ史上、最高傑作と言われる「ガイズ&ドールズ」から”The Oldest Established,” “Luck Be a Lady” (日本では宝塚で何度も上演されている演目。私は中学生の時に、まだ現役でトップスターだった大地真央と黒木瞳の組み合わせで観ました。これが私の人生初のミュージカル体験)、同じ作曲家フランク・レッサーによる”The Most Happy Fella”より”Standing on the Corner” など。他にも”Music Man” のアカペラ曲や、「南太平洋」の”There Is Nothing Like a Dame”など捨てがたい候補がたくさんあったのですが…。日本トップクラスの若手オペラ歌手とゲスト歌手の4人によるアンサンブルは絶対盛り上がるはず! 

 「ガイズ&ドールズ」は1992年のブロードウェイ再演を現地で観ました。その後「プロデューサーズ」の主演などでも大活躍のミュージカルコメディ俳優ネイサン・レインがネイサン役でした。YouTubeに映像がありますが、ネイサンとして最高の配役だと思います。何度見ても飽きません。

https://youtu.be/wrya0sU7Dj8

 ネイサン・レインは実は彼の芸名で、まだ駆け出しの若い頃、ガイズ&ドールズのこの役に憧れて芸名をネイサンにしたそうです。

 また、例年兵庫のジルヴェスターでは歌手のほかに司会がいるのですが、今年はあえてMCを立てるのをやめ、キャストの皆さんが入れ替わり立ち代わりMCや語り、芝居でつないでいくスタイルを取ることにしました。全体を流れのあるショーとしてお楽しみいただけると思います。

 海外からのゲスト歌手はメゾのサンドラ・ピケス・エディ。昨年の小澤征爾音楽塾「カルメン」でご一緒した方で、彼女はタイトルロールとして圧巻でした。兵庫でも「フィガロ」ケルビーノなどで出演しています。テノールのピーター・カークは兵庫「夏の夜の夢」でご一緒した若手で、演技力・歌唱力、柔軟性、素晴らしかったです。「夏の夜の夢」はキャスト全員が素晴らしくて忘れがたい公演です。

 

 ブロードウェイミュージカルの黄金時代と言えば、なんといってもリチャード・ロジャース(作曲)とオスカー・ハマースタイン2世(作詞)のコンビによる作品群。「王様と私」「南太平洋」「オクラホマ!」「回転木馬」「サウンド・オブ・ミュージック」など、誰でもタイトルは聞いたことのあるこれらのミュージカルはすべてこの時代に生まれました。第二次世界大戦後の好景気のアメリカでは新しい観客層が生まれ、時代に合った新しい劇場作品が求められていたことが背景にあります。

 今でこそリチャード&ハマースタインの作品はいわゆる古典になっていますが、当時、彼らの作品は革命的でした。それまでの戦前のミュージカルはほとんどがたわいない男女の恋を描いたコメディタッチのロマンス物だったのですが、ロジャーズ&ハマースタインが初めてミュージカルにシリアスな題材を持ち込み、しっかりした台本と、ストーリーを語るための音楽とダンスを融合させ、大人の芸術作品に昇華させたのです。

 当時のアメリカ人が直面していた社会問題などをミュージカルに持ち込んだのは彼らが最初でした。たとえば「王様と私」「南太平洋」は人種の問題。「回転木馬」では主人公の相手役は社会の底辺のならず者で、自殺してしまう。「オクラホマ!」では殺人未遂や、レイプ未遂が出て来るのも当時としては衝撃的でした。このようなシリアスなテーマを盛り込んだドラマと、単なる耳に心地よい音楽ではなく、物語を語るための音楽を合体させたおかげで、ミュージカルの歴史で初めて、その後も繰り返し再演される作品が生まれたのです。

 ハマースタインの弟子で「ウエストサイドストーリー」の作詞家であり、その後「イントゥ・ザ・ウッズ」ほか数多くの名作を生んだスティーブン・ソンドハイムの「リトル・ナイト・ミュージック」からも1曲取り上げています。

 

 さて、今年もあとわずかとなってしまいました。今年も多くの方々にブログをお読みいただき感謝しています。来年からもどうぞよろしくお願いいたします。よいお年を!

 

 

参考文献:Miller, Scott, Strike Up the Band: A New History of Musical Theatre, Heinemann, 2007.