2015年にその演奏に大興奮したファビオ・ビオンディ指揮エウロパ・ガランテが再び来日して、2月29日・3月1日、神奈川県立音楽堂でヘンデルのオペラ「シッラ」が上演されます。演出は彌勒忠史さん。私は今回も演出助手で参加します。
https://www.ongakudo-chamberopera.jp
2015年「メッセニアの神託」上演の際の記事 ・・・彼らの演奏は衝撃的、スリリングでした!! そしてビオンディ氏はちょっと不思議な能力を持った音楽家でもあります。
「シッラ」の関連企画として行われた「ヘンデル声楽作品の発音と様式を学ぶマスタークラス」(1月9日)に聴講に行ってきました。
ヘンデルを勉強中の5人の学生が、レチタティーヴォ・セッコ付きのアリア、レチタティーヴォ・アッコンパニャート付きのアリアを演奏。私は前半しか見られなかったので聴けたのは以下の3曲。
「リナルド」より アルミレーナのレチタティーヴォとアリア Armida, dispietata… Lascia ch’io pianga
「ジュリオ・チェーザレ」より セストのレチタティーヴォとアリア Figlio non è… L’angue offeso riposa
「パルテノぺ」より エミリオのレチタティーヴォとアリア Contro un pudico amor… Barbaro fato si, la speme mi trade
講師は原雅巳、ノルマンノ・アリエンティの各氏。アリエンティ氏がディクションを細かく指導し、原氏が補足としてヘンデルやバロックの上演様式などについて解説しました。講義で触れられたことを、知っていることも知らなかったこともまとめて書き留めておきます。
・ オペラにおいて、レチタティーヴォは筋を運ぶ役割。アリアはその役のその時の感情を表現する役割。役のキャラクターや状況を表すのはレチタティーヴォである。
・ セッコの休符は16分休符、8分休符、4分休符と色々あるが、違いにはあまり意味はなく、厳密に再現する必要はない。音価の違いは、次の単語のアクセントの違いから来ているので、イタリア語を正確に言うことの方に集中すれば良い。ただし2分休符以上は意味がある。
・イタリア語は形容詞+名詞の組み合わせは一つの塊として発音するため、形容詞の方のアクセントは強調せず、名詞の方だけに付ける。例えば “tormentoso inferno”であれば、tormentosoのアクセントは最後から2音節目の“to”だが、それは強調せず軽めにして、”inferno”の “fer”にアクセントを持ってくる。
・イタリア語は [ε](開音)と[e](閉音)、[ɔ](開音)と[o](閉音)で言葉の意味が変わるので正確に区別して発音しなければならない。
・単純な8分音符を並べてあるだけのセッコでも、その音価を正確に表現するのではなく、テキストを喋った際の微妙な音の長短を出すようにする。つまりセッコは音符よりテキストに沿うようにする。
・Lascia ch’io piangaはサラバンド*のリズムである。ヘンデルは、高貴な女性の歌には、嘆きや悲しみの歌でもサラバンドをよく使った。サラバンドは2拍目にアクセントがあるリズムである。
・オペラで “alma”と言う単語はだいたい、「魂」ではなく「心」という意味捉えてOK。
・ヘンデルのカデンツァのルール: アリアの最後にadagioと書いてある場合はそこにカデンツァをつける。ただし伴奏が通奏低音だけになったところでつける。
・ヘンデルはオペラの中で主役か準主役に1曲だけアッコンパニャートのレチタティーヴォを与えている。だいたい2幕の最後。
・アッコンパニャートは弦楽器が多く、指揮者とコンタクトを取りながら歌う必要があるので、縛りが多く、自由度がない。音価どおりに歌う。
・ 二重母音: 二重母音という言い方は本当は変で、二重といっても両方の母音が等価ではない。例えば “quando” であればuが半母音、aが主母音なので、aにアクセントが来る。
・ “fato”と”fortuna”は両方「運命」だが、”fato”は生まれながらの宿命。fortunaは場合によって変わる運。
*サラバンド: 3拍子系の舞曲。2拍目に長い音価の音符がおかれることが多い。元はスペイン
または中南米の活発な民衆舞踊だったものが、優美な宮廷舞曲となり、荘重なリズムを持つ舞曲として17-18世紀に流行した。(音楽之友社 音楽小辞典より)
サラバンドは元はムーア人の音楽を発祥とし、スペインを通じて南米のスペインの植民地に伝わり、16世紀にポルトガルに逆輸入されたとされる。サラバンドという呼称はグアテマラのサラバンダという笛から取られた。