マイズナーテクニック・ワークショップ(1)

マイズナーテクニック・ワークショップ(1)

  1月8日から17日まで10日間、柚木佑美さんが主宰するマイズナーテクニックのワークショップ「アクターズワークス・エクササイズクラス」に参加してきた。

 マイズナーテクニックはアメリカのアクティングコーチ、サンフォード・マイズナーが開発した演技テクニックで、相手と言葉を繰り返し合うエクササイズを使って「自分ではなく相手にフォーカスし、相手に対するリアクションで演技をすること」「頭で計算せず、衝動を大事にして演技をすること」を目的としている。

 

 私が演出家でありながら今でも時々演技の勉強をしに行くのは、演技をしている時の俳優の感覚をわかっていたいということと、演技指導や演出をする際に、俳優同士のリアルなコミュニケーションがうまくいっているかを能動的に、動物的に判断したいと思っているため。特に大学で演技指導をするようになってから、自分も時々演技をすることによって、ちゃんと感覚を持っておきたいと思うようになった。

 

 これまでに私が学んできた演技テクニックはイギリスで教えられているスタニスラフスキーが中心だった。イギリスで教えられているスタニスラフスキーは、「目的」「障害」「与えられた状況」を把握することを中心としていて、感情にフォーカスはしない。感情は、上記をやった結果自然に出てくるものという考え方をする。

 マイズナーは、少なくともこのクラスでは、感情そのものに意識を向ける。こういうメソッドはほとんど初めてだったので、かなり新鮮な体験だった。

 

  エクササイズクラスは、主に相手とのセリフのリピート(repetition, レペティションという)を通じて、頭で判断せずに、感情をそのまま出すことをやる。

 人間は子供の頃は、感じたままに笑ったり泣いたりするが、大人になるにつれ、社会性を身につけ、思ったままに感情を出すことはしなくなる。もちろんそれは大人として生活していくには必要なことなのだが、感情を自由に扱わなければならない俳優の場合、脳のブロックが自由な演技の邪魔になってしまう。そこで感じたままのことを思い切り躊躇なく相手に伝える練習をすることで、舞台で演じる際には感情をコントロールできるようになるのが目標である。怒り、悲しみ、といったネガティブな感情も、結果を考えずに相手にぶつける練習をする。

 エクササイズを通じて奥底に眠っていた感情が呼び覚まされるので、自分も他の参加者達も、毎日泣いたり叫んだり大変なことになる。これほど強烈なワークショップも久しぶりだった。

 

 毎日、まずワークを始める前に、リラクゼーションの時間がある。仰向けになったり椅子に座った状態で目を閉じ、呼吸をしながら、体の一部分に意識を向けたり、いろいろな部位に力を入れてから抜く、ということを繰り返す。おそらく毎回20分くらいは時間をかけただろうか。

 これをやると、脳が不思議な状態になる。過去の記憶を思い出したりするのが、普通の状態よりも容易になる。

 

 クラス二日目、リラクゼーションの後で、子供の頃に住んでいた家の子供部屋に行く(思い出す)、というワークをやった。

 先生の声かけで、まず、部屋のディテールを見る。絨毯はどんな感じか。窓はあるか。何が見えるか。ドアはんなドアか。

 私は小学校高学年の頃に住んでいたマンションの自分の部屋にいた。部屋の隅々をよく目を凝らして見始めると、本棚に詰まっている本の、あせてシワシワになった背表紙がありありと蘇ってきて驚いた。その光景は、その部屋を中学1年生で去って以来、思い出したことはおそらく一度もなかった。

 (次回に続く)

 

 ずっと前に読んだマイズナーの本を引っ張り出してきて読み直しています。