今月前半、ステージアラウンドトーキョーの「ウエストサイドストーリー Season 3 」(4月1日開幕予定)の稽古場で演出家通訳をしていました。
https://www.tbs.co.jp/stagearound/wss360_3/cast/
Season 2は2月下旬から公演中止になってしまいましたが、Season 3は稽古が続行しています。
(自分の演出作品は中止になったのに、こちらの公演の稽古が通常運転だったのは複雑な心境でもあったのですが・・・)
このプロダクション・演出は現在ブロードウェイで上演中の舞台とも違う、ステージアラウンド専用に一からクリエイションされたもので、動く客席を取り囲む360°の劇場を目一杯駆使した、大変面白いものです。
時代考証に基づいた緻密な美術、映像を駆使した場面転換の面白さ、そして幕切れの、現代の観客に直接「憎しみが憎しみを生む暴力の連鎖について、あなたはどう考えますか」と問いかける、ブレヒト的な演出がとても好きです。
シーズンごとにメインキャストが変わり、Season 3の出演は浦井健治、柿澤勇人、桜井玲香、伊原六花、ソニン、夢咲ねね他。
昨年8月に開幕した来日版の後、Season 1→Season 2 →Season 3を通じて演出補のフリオ・モンヘ氏が仕切ってきました。
フリオは若い頃にウエストサイドの元振付家であるジェローム・ロビンズと密接に仕事をしたことがあり、現在は今年末に公開予定のスティーブン・スピルバーグ監督映画「ウエストサイドストーリー」のコンサルタントも務めています。ダンスはジェローム・ロビンズの振付をかなり踏襲しています。
しかも彼は、18歳までプエルトリコで生まれ育ったプエルトリコ人。作品世界と歴史的背景については深い造詣があります。おかげで私も改めてこの作品について貴重な勉強をすることができました。
フリオは、来日版を含めると同じ演出で4回目の稽古にも関わらず、新しいキャストとの新シーズンに際しては、きちんと最初からテーブルワークやレクチャーをやり、また、ステージング自体もそのキャストに合うように、自由に任せてみたり、細かい動きを改善したりしていて、4回目でも全く手を抜くことがなく、綿密な稽古を重ねています。
今回学んだウエストサイド雑学より、少しだけご紹介。
・プエルトリコは多民族国家で、西洋人の到来前から住んでいたネイティブアメリカン系民族もいれば、白人も、黒人も、アジア系もいる。マリアの婚約者の「チノ」という名前は、彼がアジア系の顔をしていることから来ているあだ名である(チノ=中国)。
・有名な曲“America”はプエルトリコの伝統的な歌合戦 “decima” の形を踏襲している。
Decimaとは、10行詩を即興で作って優劣を競い合う一対一の歌合戦。最後の行だけが決まっており、歌い手は、詩の結論(10行目)に合うように、最初の9行を即興で詠む。しかも韻を踏んでいなければならない。テーマは哲学的なもの、宗教的なもの、恋愛、政治、色々あり得るが、ウイットで相手を皮肉るような内容のことが多い。
“America”の最初の部分で、アニータとロザリアがやりあっているのはちょうどこれに当たる。(ただしミュージカルなので完全に10行になっている訳ではない)