“Costuming for Opera: Who Wears What and Why”より最終回です。「フィガロの結婚」のキャラクターについての衣裳的観点からの解説をご紹介します。作品の時代背景的な知識もつくのでとても役立つ本です。
専門的な衣服用語がたくさん出てくるので参考写真を探してみました。
バルトロ
(ボーマルシェによる衣裳の説明:ボタン付の短い黒のスーツ、大きな化粧かつら、折り返しのカフ、黒いベルト。外出の際は赤いケープ。)
18世紀当時、聖職者、司法関係者、医者は黒を着るものと決まっていた。バルトロは裕福な医者なので、質の良いビロードのジャケットに半ズボンを着せると良い。バッハの肖像などで見る長いグレーの化粧かつらがぴったりくる。プラスして黒い三角帽、黒い靴下、黒いケープが良い。普段はセヴィリアに住んでいる彼がはるばるアルマヴィーヴァの館にやってくるので、杖を持っているだろう。
バジリオ
(ボーマルシェによる衣裳の説明:つばが上を向いた黒の帽子、Soutanelle(注:黒いローブのような形の衣服)、長いケープ。ひだ付襟は無し。)
ボーマルシェはアルマヴィーヴァやバジリオを描くことによって18世紀フランスの貴族や聖職者を暗に批判していた。バジリオは正式な神父ではなく、lay brother(信士)という位の低い聖職者であり、18世紀には様々な理由で人々はこの職業に就いたが、信仰心が動機ではめったになかった。Lay brotherの衣服は色々なバリエーションがあった。Cassockという神父の平服 ↓ に
シャベル・ハットという、 ↓
「セヴィリアの理髪師」でよく見る衣裳もあり得るが、ボーマルシェが描写している服装の方が、若干不正確ではあるが、より一般的だった。短いCassockで後ろに短いケープがついたもの。(下は色は違いますが、こういう形↓)
頭にはスカルキャップ。(下の写真で手前の二人がかぶっている帽子)
髪はウイッグをつける。Jabot(ひらひらの襟)の代わりに聖職者用のtabsを着ける。
Jabot ↓
聖職者のtabs ↓
☆バジリオが聖職者である、それも宗教心のためではなく、おそらく生活のために聖職者になったいやしい人物である、という点は「セヴィリアの理髪師の結婚」ではこだわって描いたところです。この本にも書いてあるように、ボーマルシェは聖職者の堕落ぶりを攻撃するためにバジリオを描いたのでした。その後フランス革命においては貴族と並んで聖職者も迫害の対象になったのは周知のとおり。