天才とのお仕事~ エウロパ・ガランテ「メッセニアの神託」

天才とのお仕事~ エウロパ・ガランテ「メッセニアの神託」

 先週一週間はファビオ・ビオンディ指揮エウロパ・ガランテによるバロックオペラ、ヴィヴァルディ「メッセニアの神託」(演出:彌勒忠史)に演出助手として参加していた。

  ファビオ・ビオンディはイタリアで古楽への関心が薄かった時代に、鮮やかな解釈と演奏で「イタリア人によるイタリアのバロック音楽」を復活させた人。1990年に彼が自ら結成したエウロパ・ガランテの音楽の特徴は、イタリア特有のレッジェーロなリズム感と疾走するビート感。強めの低弦によるスピッカートにテオルボ(バロック時代のギターのような楽器)の激しいストラミングが加わり、まるで16ビートのロックを聴いているような快感が走る。

 難しい説明はさておき、兎にも角にもエウロパ・ガランテによるヴィヴァルディ「四季」のこの演奏を聴いてみてください。16分40秒頃からの「夏」の盛り上がり部分は特に絶品です!!

 https://www.youtube.com/watch?v=SLP7c0o1Xq0

 

 「メッセニアの神託」の演出付の公演は世界初。立ち稽古はたった2日、プラス、ゲネプロのみで舞台を完成させてしまった。歌手のレベルも非常に高く、終演後は拍手が鳴りやまないほどの成功だった。

 

 ビオンディ氏はどうやら霊的な能力があるらしく、演奏中にヴィヴァルディの時代にタイムトリップしているという。そういえば通し稽古中に弾き振りをしているビオンディ氏は、一般的な指揮者の様子とはちょっと違って、熱演というよりも瞑想に入っているように見えた。ゲネ後のパーティの時にそのことについてちょっとご本人に訊いてみた。「うん、色々な時代に行っているよ。それに僕は普段から昔の時代の記憶がごちゃごちゃになってしまって、どれが自分自身の記憶なのか分からなくなることがよくある」「じゃあ過去生もあるということですか?」「うん、何度も生まれ変わってるよ」…なるほど、どうりで仙人のような雰囲気を醸し出しているわけだ。

 そして、ヴィヴァルディの時代に行ってみて分かったことは「彼らよりも自分たちの方が演奏が上手い」のだそうな。自画自賛?(笑) でも確かにその通りに違いない。なぜならビオンディたちはヴィヴァルディの時代の後300年間に積み重ねられた演奏技術や解釈を踏まえた上で演奏しているからだ。「自分たちは決してバロックの時代の演奏を再現している訳ではなく、音楽の歴史を経てきた現代の我々がどういう解釈をするかという事に意味がある」と彼は言う。その300年の蓄積の中にはきっとクラシックだけではなくジャズ、R&B、ロック、ヘヴィメタル、あらゆるジャンルが包括されているのではないかと思える。彼らの音楽はダンサブルだ。知らずと体が動き出してしまう。本番中、袖で次の出番を待っている歌手たちはよくノリノリで踊っていた。クラブで踊るような踊り方で。

 この演奏を一週間たっぷり聴いて、彼らのリズム感を身体に取り込めたのは最高に幸せだった。

 

 もうひとつ今回の公演での圧倒的な出会いは、ロシア出身のメゾソプラノのユリア・レージネヴァという歌手。トラシメーデという役でバロックオペラ特有の超絶技巧を要するアリアが2曲あったのだが、もう唖然とするほど巧い。まだたった25歳、しかも身長おそらく150㎝台半ばくらいの小さな身体で、ごく軽い声で曲芸のようにアジリタをこなす。これまでメゾでアジリタが巧い歌手の代表といえばチェチリア・バルトリだが、バルトリのような太い筒を響かすような発声ではなく、頭の方で軽々と転がしているというように聴こえる。というよりも、どうやって転がしているのかもよくわからない、人間業とは思えない軽やかなアジリタなのである。バルトリを上回る才能と評している指揮者もいるとか。彼女の歌が終わる度に観客も大興奮でさかんに歓声を送っていた。今年はロイヤルオペラハウスの「ドン・ジョヴァンニ」でツェルリーナを歌うことになっている。間もなく世界的なスターになることは間違いない。

 ユリアちゃんが歌った ”Exultate, Jubilate”を見つけたのでリンクを貼っておきます。この可愛らしさで、この声!

https://www.youtube.com/watch?v=DlIPyey3_YY

 

ホルニストのお洒落なホルン。