サブテキストの力

サブテキストの力

 今日は素敵な映像を紹介したいと思います。ミュージカル歌手の演奏ですが、オペラ歌手の方達にもきっと刺激になるはず。歌唱において、サブテキストを変えるといかに表現が変わるかを実証してくれるパフォーマンスです。

https://www.youtube.com/watch?v=0mS4gVW-FXw

 「ミス・サイゴン」初演でキムを演じ、その後も大活躍しているミュージカル俳優リー・サロンガのリサイタル。「マイ・フェア・レディ」の “I Could Have Danced All Night” 冒頭部分をまず歌った後で、このような語りをします。

 「『ミス・サイゴン』出演期間が終わったあと、エージェントから連絡がありました。『マイ・フェア・レディ』のイライザをやらないかと言うのです。私は有頂天でイエスと言いました。だって、20代前半の女優で、イライザをやりたくないなんて人がいるでしょうか?! ところが、10分後にまた連絡がありました。『あなたは白人じゃないからダメだそうです』と」

 ここまで語ったところで、彼女は同じ歌の続きを歌い出しますが、今度はガラっと違う表現。同じ曲が、差別のせいでチャンスを失ったことへの悔しさを表すのに使われています。

 

 歌詞を日本語にするとしたら、こんな感じかな?

 

(普通の歌唱の場合)

私は一晩中だって踊っていられた

それでも足りないくらいだった

翼を伸ばして これまでやったことのない

あらゆることが出来そうだった

なぜそんなにワクワクしたのかわからない

突然、心が飛び立つような気がした

ただ、これだけがわかる

彼が私と踊り始めた時

私は一晩中踊っていられた

 

↓ (この演奏) 

私は一晩中だって踊れたのに!

それでも足りないくらいだったのに!

翼を伸ばして これまでやったことのない

あらゆることが出来るかと思ったのに!

なぜそんなにワクワクしたのかわからない

当然、心が飛び立つ気がしたのに!

ただ、これだけがわかる

彼が私と踊り始めた時

私は一晩中踊っていられると思ったのに!

 

 

 先日、大学のミュージカルの授業でこの映像を見せました。授業ではよくサブテキストの話をします。同じ歌でも、サブテキストによって全く意味が変わりうる。まさにその好例の映像です。

 しっかし、リー・サロンガ若すぎ!80年代後半でデビューした人なのに、この若さ。私と同い年だとさっき調べて知りました。